心の治癒と魂の覚醒

        

うつという「最高の修行」

 私のうつとの闘いは続いている。今はインターネットという、情報を集めるには本当に便利なツールがあり、助かっている。むかしは情報を集める手段といえば、主に新聞や雑誌や本、テレビやラジオなどのマスコミだけであった。しかし、マスコミの情報は営利が絡んでいるために正確でないことも多い。たとえば新聞や雑誌などの多くが広告収入で成り立っているので、広告主の会社の不祥事を知ったとしても、それを記事にすることはまずないだろう。その点インターネットは、政治や営利とは関係なく、さまざまな裏情報も入手できる。もちろんそれらのすべてが真実というわけではなく、根拠のないものや嘘もかなりあるだろうが、それでも真実がそこにあったりする。そのぶん、私たちは「情報過多」となり、どれが本当の情報なのか迷うことになる。そのため、本物と偽物とを見極める判断力が今まで以上に求められることになる。だが、それは口で言うほど簡単ではない。

 私も、インターネットでいろいろ調べて、「うつが治ります」と言葉巧みに書かれている、ある治療院のホームページを読み、それを信じて片道3時間かけてその治療院に行き、気功とマッサージと簡単なカウンセリングを受けたが、まったく効果はなかった。少なからぬ交通費と治療代と時間が無駄になった。あるいは、「うつの原因のほとんどは脳への血流不足である。脳への血流を多くすれば、どんなに重いうつでも三ヶ月で治る」という情報商材を見つけた。価格は2万円。宣伝文句を信じて購入し、そこに書かれているストレッチやツボ刺激などをしているが、それほど劇的な効果は今のところない。「どんなに重いうつでも三ヶ月で治る」という宣伝文句の最後に小さな文字で「効果には個人差があり、うつが必ず治ることを保障するものではありません」などと書いてある。これも不発に終わった試みのひとつだ。脳への血流不足がうつの原因のひとつであることはたぶん本当だと思うが、宣伝文句が誇大すぎる。
 他に漢方薬やハーブ、脳内物質ギャバのサプリなどを試したが、あまり自覚できるような効果はなかった。
 このように、いろいろ試していると、それなりにお金がどんどん使われることになる。最初から効果がないとわかればいいのだが、実際には試してみないとわからないことが多い。なので、以上のような試行錯誤的な試みは、たとえそれが期待はずれの結果に終わったとしても、仕方がないことなのだ。それも成功に至るための「必要経費」であり、「授業料」だと考えることだ。何かに挑戦するには、数多くの失敗を経るのが普通だ。エジソンは電球の発明に際して一万回も失敗したというが、彼はそれについてこう語っている。「失敗はしていない。うまくいかない方法を一万回発見したのだ」。エジソンのこの言葉を胸に刻んでおきたい。

 一方、自覚するレベルで効果があったのは、デトックスである。具体的には、スーパー銭湯に定期的に行って、遠赤外線の「岩盤浴」で大量の汗をかくことである。遠赤外線による発汗は、普通のサウナによる外の温度によるものではなく、共鳴現象によって皮膚の深い層にまで熱を生みだして発汗させるもので、深部に蓄積された毒素が汗と共に排出されていく。また、細胞賦活作用や免疫力の向上、自律神経の調整といった効果もある。
 また、腸内環境を整えるのも効果があった。具体的には野菜(特に繊維の多い根菜類)や発酵食品(納豆や味噌、ヨーグルトなど)を摂取し、白砂糖などを極力控えるという食生活をすることである。
 その他、なるべく散歩や軽いジョギングなどの運動をするようにし、ヨガも行い、また入浴のときは最後に水のシャワーを浴びたりした。急激に水で冷やすことにより、副腎皮質ホルモンの分泌を活性化させ、免疫力を高める効果があるらしい。
 こうした生活をすることで、精神安定剤の減薬が思った以上に進んだ。今は1.5錠~2錠(適量は1.5錠)にまで減薬することに成功した。だが、それ以上の減薬は、なかなか思うようにいかず、足踏み状態が続いている。

 さらに、減薬による禁断症状なのか、それとも、薬によって抑えられていたもともとのうつの症状が出てきたのか、この点ははっきりしないが、気分的な落ち込みは、ある意味で前よりも強くなっていった。健康的な生活をしているので、全体としては改善に向かっているはずなのだが、この気分の落ち込みは実に辛い。特に朝起きたときの気分は最悪で、「もう勘弁してくれ!」と叫びたくなる。あらためて、うつの人が自殺に走ってしまう気持ちがよくわかった。
 しかし、先日、精神科医のもとに行くと、新しい薬を試してみないかと言われた。
 それは、エビリファイ(アリピプラゾール)という薬で、もともとは統合失調症の薬として2006年に開発されたものであるが、2013年にうつ病(特に従来の抗鬱薬が効かないケース)にも効果があることが確かめられた。この薬のユニークな点は、セロトニンやドーパミンといった脳内物質を、従来の薬が抑制するか増強するか、どちらかの作用しかなかったのに対し、このエビリファイという薬は、脳内物質が不足している場合(うつがこれに当てはまる)は増強させ、過剰分泌されている場合(統合失調症がこれに当てはまる)は抑制するように働く。要するに、適量を分泌するように調整する作用があるという(この薬は世界的に大ヒットし、賞をもらい、開発した大塚製薬はこの薬だけで大幅に利益を伸ばし、大手製薬メーカーの仲間入りをした)。
 私は、薬はあまり飲みたくなかったので迷ったが、副作用や依存傾向は非常に少ないというので、とりあえず試してみることにした。
 その結果、意外にも、「もう勘弁してくれ!」というほど最悪の気分がほとんどなくなった。
 もちろん、まだまだ問題が解決されたわけではないが、とりあえず、あの耐え難い苦しみが緩和されただけでも、本当にありがたいことであった。
 そこで考えたのだが、とりあえず副作用や依存性の弱いエビリファイの力を借りて気分を安定させることで、副作用や依存性の強いベンゾジアゼピン系の精神安定薬を完全に断つという作戦で進んでみることにした。
 世間には、「向精神薬は絶対にダメだ」と全面否定している人がいるが、私はそれは極端であると思う。確かに、軽いうつに対してやたらに向精神薬を投与するのは間違っていると思うが、重度のうつの場合や、減薬のための補助的な使い方をする場合などは、それなりに有効であると思う。どうであれ、極端な考え方というのは間違っていることが多い。

 インターネットで、「うつになってよかったこと」という記事が目にとまり、読んでみた。すると、うつに苦しんで回復した人が「うつになってよかったこと」の筆頭にあげたのは、「人に対して優しくできるようになった」ということだった。
 うつに限らず、苦しい経験というのは、がいして人を優しくするものだ。苦しんでいる人の気持ちがわかり、共感できるからである。とりわけ病気の苦しみはその傾向が強いと思う。古代インドの聖典『ウパニシャッド』には、「病気はあらゆる苦行のなかでも最高の苦行である」と書かれている。病気、そのなかでもうつ病は、人を優しく、また強くさせる「最高の苦行」ではないかと思う。
 うつの経験者、また抗うつ薬や精神安定薬の服用者ならよくわかっていただけると思うが、そのような状態のときは頭がよく回らない。記憶力も判断力も低下し、単純な作業ができなくなったり、ミスを多発させてしまう。また意欲が乏しくなり、疲れやすく、何をしても長時間よいペースを保つことができなくなる。
 私はそのために、私と関係した人々から、ひどいことを言われたり、冷たくされたり、意地の悪いことをされたりした。そのためにうつが悪化したことは確かである。けれども、私はその人たちのことを恨んではいない。ほとんどの人は、私がうつであることも、大量の精神安定薬を服用していたことも知らなかったからである。たぶん私は、不器用な人間、やる気のない人間に見えたのだろう。仕方がないことである。以前の私だったら、同じことをしていたかもしれない。
 しかし、うつを経験した今の私は、たとえ不器用な人、やる気がない(ように見える)人に対して、ひどいことを言ったり、冷たくしたり、意地の悪いことをしたりすることは決してないだろう。なぜなら、どのような理由がそこに隠されているか、わからないからである。
 私は、うつの経験を通して、そういう貴重なことを学び、それを血肉とすることができた。地上という場所が「魂の修行の場」であるとするなら、私はうつという最高の授業、最高の修行をさせていただいたことになる。一時は自分の不運を嘆いたが、今は本当に「幸運」であったことがわかる。
 愛を語る人は多い。だが、その人に本当に愛があるかどうかは、当然のことながら、その行動で決まる。
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コメント

こんにちは。ブログへのコメントは初めてです。

私は時々思うのです。斉藤先生は激しい落ち込みがあり、薬こそ飲まれていますが、軽い運動ができお風呂にも入れる……本当にウツかしら?って。
語弊のある書き方ですみませんでしが、その強い精神力を誉めているんです。(笑)
私は昔は、落ち込み過ぎて動けなくなることがよくありましたから。 動けるなんて素晴らしい・・・・。


ところで、「高い授業料」 は私も払い続けました。
時々自分のその散財ぶりを思い出しては落ち込むこともありますが、 『失敗ではなく、上手くいかない方法の発見…』  そうですね。そう考えれば楽になります。よいことを教わりました。ありがとうございます。


ちょっと余談になるのですが、私がずいぶん前の20代の頃に、かなりな腕前の ”シャーマン”(←おそらく) の方に言われた内容に  「今生でのあなたの関心は主に自分に費やすことです」 というのがあり、何か抽象的だったので自分では何のことかずっとわからないままだったのですが、それを聞いた当時の友人は 「へえいいわねえ。」 と… サクセスストーリーのように受け取った風でした。(軽く嫉妬されたようにも感じました。)


しかし夢のような人生は私には訪れず・・・・・・


それから20年くらいたって振りかえるに、
それっていわゆる 「治療」 だの 「立ち直り」 だのに散々、人より散々お金がかかる、ということではないの!と、やっとその言葉の意味が解り、一人で笑ってしまいました。 ものは言いようだなぁって。 そして言葉の解釈も人それぞれだなあって。
”お金をかける” ではなく ”お金がかかる” だったんですよ、ね。 かけなきゃしょうがないほど必要だったということなんです。 


けど、きっと何か、アタマの隅でもわずかでも、そこから何かは得ているものと思っています。
私はよく谷底の百合…の話を自分に言い聞かせます。 谷底に落ちて、そこから百合の花を取って戻って来る…という話。 (黄金の百合でしたか?)


なんかまとまらなくてすみません。
でもいつも、斉藤先生の上向き加減は文章から感じています。 
ではこの辺で失礼いたします。







2016-02-05 Fri 13:18 | URL | KK [ 編集 ]
斉藤啓一です。KKさん、コメントありがとうございました。私もうつがひどいときは、運動もお風呂(銭湯)にも行くことができなくなり、部屋の中でただ横になっているというときも少なからずありました。うつが治る過程は一直線によくなるのではなく、良くなったり悪くなったりを繰り返して全体的にはよくなっている・・・という感じでしょうか?
KKさんも、同じように険しい道を歩まれているようですね。おっしゃるように、頭のなかで、あるいは魂のレベルで、この辛い経験を通して貴重なものを手にしているのだと思います。遠大な視野に立てば、これもよい経験であり、百合の花に象徴される何か尊いものを与えられているのだと思います。お互いに前進していきましょう。あせることなく、無理のないペースで。
2016-02-05 Fri 17:19 | URL | 斉藤啓一 [ 編集 ]
今日また良い言葉に出会いましたよ。

『どんな痛みや絶望が湧き上がってきたとしても、それを湧き上がらせてくる力そのものは、喜びに満ちた力なのだと考えることができる』

…だそうです。

こう思えるのは嵐が過ぎ去って、心や身体等々の ”激甚災害” からある程度復活した後なのでしょうけれど、心からこう思えるようになったらいいですよね。

(でも渦中にあるときは間違いなく素通りする言葉ですね。苦笑)
2016-02-08 Mon 11:30 | URL | KK [ 編集 ]
斉藤啓一です。KKさん、再びコメントありがとうございました。この言葉は、解釈によって2通りあるのではないでしょうか。ひとつは、「痛みや絶望の次に喜びがある」という解釈、もうひとつは、「痛みや絶望をもたらす原因は喜び(仏教的にえば煩悩や快楽)である」という解釈です。どちらにしても、意味が深いですね。
2016-02-08 Mon 16:45 | URL | 斉藤啓一 [ 編集 ]
はじめまして。
約30年前に出版秘宝カバラ数秘術という本を最近ネットで購入し、先生のことを知りました。非常にわかりやすい本でとても楽しくカバラのことを知れました。
それから先生のHPを見て、うつで苦しまれてると知りました。

本当にお辛いと思います。私にはその気持ちを理解することはできませんが、どうか体を温めるようにしてみて下さい。ご存知だと思いますが、病気の大体の原因は体の冷えのようです。
熱々の紅茶に生姜をたくさんすりおろし、黒砂糖かはちみつを入れた生姜紅茶を飲むようにしてみて下さい。
熱々の生姜紅茶を毎日5、6杯飲むと、効果が出ると思います。私は飲み始めてすぐに体重が減り、体調もよくなりました。体温が上がると体調がよくなるみたいです。
お金もそこまでかからないと思いますので、騙されたと思ってやってみてください。
先生の文章を読んでいると、よく分かりませんが、天才なんだなと感じます。この先も新しい本を出版されるなら是非読んでみたいです。

いきなりですが私が勝手に思ったことを書かせていただきました。
失礼致します。
2016-02-11 Thu 19:11 | URL | 153の魚 [ 編集 ]
斉藤啓一です。153の魚さん、有益な情報、ありがとうございました。また、拙著をご愛読くださり、心よりお礼申し上げます。
生姜紅茶ですね。さっそく飲んでみます。確かに私の体は冷えていると思います。今年の冬はとりわけ寒さに弱くなり、手足の末端が冷たくなっています。
わざわざ時間を割いて教えてくださり、感謝いたします。今後ともよろしくお願いいたします。
2016-02-11 Thu 19:24 | URL | 斉藤啓一 [ 編集 ]
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2016-02-14 Sun 18:11 | | [ 編集 ]

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