心の治癒と魂の覚醒

        

追悼 日野原重明先生

 本日、聖路加国際病院の現役医師として活躍してこられた日野原重明先生が、105歳でお亡くなりになりました。心よりご冥福をお祈りしたいと思います。
 日野原先生には、私の本『ブーバーに学ぶ』(日本教文社)の帯に推薦文を書いていただいたご縁で、一度お会いしたことがあります。
 推薦文を誰か有名人に頼む場合、普通は著者か出版社にコネがないと、なかなか難しいとされています。いきなり頼んでも無視されるか断られるかされることが多いようです。
 しかし私は、日野原先生がブーバーを尊敬されており、ときどき著書や講演などでブーバーに言及されておられたのを知っていたので、日本では知名度の低いこの偉大な哲学者を知っていただくには、日野原先生ほどの適任者はいないと思い、ダメでもともと、日野原先生に手紙を書きました。
 すると、すぐに、先生から快諾のご返事をいただいたのです。私も編集者もびっくりしました。私など、どこの馬の骨かわからないもの書きに過ぎず、日野原先生ほどの名声と知名度のある人から相手にされるような存在ではないのですが、先生はそのようなことにこだわらず、推薦文を書いてくださったのです(ちなみに、その推薦文に対して出版社が支払った報酬はたったの5万円でした。もちろん、先生はお金だとか、そういうことのために推薦文を書いてくださろうとしたわけではなく、尊敬するブーバーの本ということで書いてくださったのですが)。
 そこでさっそく、本のゲラを先生にお送りして推薦文を頼みました。
 普通、そのようにして有名人に推薦文を頼んでも、いつまでもダラダラと待たされることが多いようなのですが、日野原先生は、すぐに推薦文を書いて送ってくださったのです。これにはまたびっくりしました。
 そして、まもなくして、何と、私の携帯電話に、日野原先生から電話があったのです。そして次のようにおっしゃってくださったのです。
 「このたびはすばらしい本を執筆してくださり、ありがとうございました」
 私はびっくりするやら、恐縮するやら、有り難いやらで、胸がいっぱいになりました。何ていう細かい気遣いのある、そして謙虚な方なのかと思いました。
 私は今まで、何人かの一流の人と会ったことがあります。
 彼らのほとんどは例外なく、謙虚でした。謙虚というか、自然体なのです。偉ぶることもなく、虚栄といったものがありません。一方、そこそこ成功して有名な人という人は、けっこう傲慢な人が多いです。二流は傲慢、一流は謙虚です。中途半端な人は傲慢、本物は謙虚と言ってもいいでしょう。これは、おそらく真理です。
 そして、本ができたので、お礼と本を贈呈するために、編集者と一緒に聖路加国際病院の日野原先生の部屋に伺いました。机の上には、執筆中と思われる原稿やら資料などがたくさん置かれていました。
 先生は、私たちを快く迎えてくださいましたが、そのときも先生は自然体でした。すなわち、客をもてなすような過剰な慇懃さはなく、かといって、そっけなく対応するというのでもなく、まるでむかしから知っている間柄のような感じで、素朴な感じで迎えてくださったのです。
 そして、先生に本を差し上げました。こういう場合、たいてい社交儀礼的に(リップサービス的に)本を褒めてくれて、それでおしまいということが多いのですが、日野原先生は違っていました。「どうしたらこの本がたくさん売れるだろうね」と言って、その具体的な方法を提案してくださったのです。そうして、もっと表紙はこうした方がいいのではないか、といったアドバイスをしてくださいました。
 さらには「私が代表を務める学会の雑誌にこの本を推薦図書として紹介しておきます」と言ってくださいました。そしてその通り、後日、その学会の雑誌に私の本が推薦図書として掲載されました。またしてもびっくりです。
 日野原先生は、単なる口先だけではなく、本当にその人に必要な援助とは何かを考え、そうして親身になってアドバイスしてくださる方なのだと思い、今までそのような人は知らなかったので、びっくりしました。
 こういう感じで、日野原先生にはたくさんびっくりさせられましたが、その人間的な温かさ、誠実さ、そして実践的な知性には、深い感銘を受けました。

 日野原先生ご自身はキリスト教徒だったようですが、ユダヤ教の哲学者ブーバーを敬愛しておられました。普通は、いくら偉人であっても異教徒を尊敬するというのは抵抗があると思うのですが、日野原先生にはそのようなこだわりがなかったようです。しかしだからこそ、先生は真の宗教者でもあったのだと、私は思っています。
 先生は「人生に余生はない。死ぬまで現役だ」とおっしゃっておられました。そして、「自分は生かされているのだ。その生かされている命を、今度は恩返しとして人のために役立てたい」とおっしゃっていました。その言葉通り、生涯、現役で人々のために尽くされました。医師として、キリスト教徒(宗教者)として、そして何よりも人間として、私たちにお手本を示してくださいました。

 以上、私が経験した日野原先生のエピソードをご紹介させていただきました。
 私は、わずかな時間でしたが、日野原先生とお会いできたことを、大変な幸運であると思っています。なぜなら、数千万の本を読むよりも、たった一人のお手本となる人物と出会う方が、はるかにすばらしい影響を与えてくれるからです。
 私も日野原先生を見習って、人々のお手本となれるような人間になりたいと思いました。
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コメント

斉藤さま

日野原重明先生とそういう縁があったのですね。
貴重な経験だと思います。

この記事を読んで、一つの糸がすっとつながるような感覚を覚えました。

『二流は傲慢、一流は謙虚です。中途半端な人は傲慢、本物は謙虚と言ってもいいでしょう。これは、おそらく真理です。』

そう思います。
では何故、謙虚でいられるのか……。
それはおそらく、自分目線だけでなく、相手の目線にもなれたからだと思います。
傲慢さは、自分の我が突出するところから始まります。
すべてにおいて相手を優先することにも謙虚さを感じてしまいますが、それはまた別のものだと思います。
自分と相手を同じように考えることができる……だから、謙虚さや思いやりの高さを十分に感じたのではないでしょうか。
日野原先生は、それが人としてできていたのだと思います。
マルティン・ブーバーの思想が輝いて生きていたのかもしれません。

対話……大切ですね。
一人では世界は完結しない。
常に他者の存在によって自分の存在が確認できる。

日野原重明先生のご冥福を心よりお祈りしたいと思います。

2017-07-19 Wed 14:01 | URL | 黒いネコ [ 編集 ]
斉藤啓一です。黒いネコさま、コメントありがとうございました。日野原先生から私たちはたくさんのことを学ばせていただいたと思います。ご冥福と共に感謝を捧げたい気持ちです。
2017-07-19 Wed 20:31 | URL | [ 編集 ]
日野原先生のお人柄が偲ばれるエピソードありがとうございます。

斉藤先生のおっしゃる通り、多くのことを学ばさせていただいたと思います。

私も、日野原先生のように有言実行の人でありたいと思います。
2017-07-20 Thu 00:59 | URL | 両さん [ 編集 ]
斉藤啓一です。両さん、コメントありがとうございました。そうですね。日野原先生にはたくさんのことを学ばせていただきました。そして先生のように、有言実行の人でありたいと思います。お互い、がんばってまいりましょう。
2017-07-20 Thu 20:20 | URL | [ 編集 ]
斎藤様、
一昨日昨日安曇野の鳥居山荘において、日野原先生のお別れの会が開かれました。名古屋聖書研究会の鳥居祝子様の別荘で、日野原先生も毎年出席されていた夏の集いです。今、私は日野原先生が推薦の言葉を書いておられる「ブーバーへ学ぶ」と『我と汝」」を;読んでいるところですが、『我と汝」は難しい内容ですので、わかりやすく解説したこの書は参考になります。感謝です。
2017-08-21 Mon 08:51 | URL | 山﨑哲 [ 編集 ]
さて、私がブーバー著『汝と吾』のことを知ったのは、故亡き尊敬する隅谷三喜男先生の著者からである。隅谷先生は、著名な社会科学者として、成田空港問題の座長として、東京女子大学学長他、国を愛するキリスト者として、激動の時代を生きてこられた。隅谷先生は、内村鑑三のことば、「死魚は流れのままに流されるが、活魚は流れに逆らって泳ぐ」という言葉と出会い、大変感動を覚えられ、生涯愛された。その『汝と吾』について難しい本であるとおっしゃっておられるが、たいへん重要なことが書かれている、おっしゃっておられる。(隅谷三喜男 信仰のことば)。それで私も読んでみようと思った時代である。
2017-08-21 Mon 12:24 | URL | 山﨑哲 [ 編集 ]
斎藤さまもご存じかとおもいますが、安曇野夏の集いに、50年間日野原先生の秘書を務められた佐藤さんがいらしておられて思い出話と先生のお人柄が偲ばれるお話をされ興味尽きないほどでした。
2017-08-21 Mon 16:48 | URL | 山﨑哲 [ 編集 ]
斉藤啓一です。山崎哲さま、コメントありがとうございました。『ブーバーに学ぶ』をご購読くださり感謝申し上げます。また、日野原先生との勉強会、『我と汝』を読まれるきっかけなど、興味深いお話にも感謝いたします。日野原先生とそのような学びの機会がありましたこと、羨ましい限りです。
今後もますますご精進くださいますよう、お祈りしております。
2017-08-21 Mon 20:39 | URL | [ 編集 ]
斎藤様 お返事感謝します。私は若いころ哲学を学んだことはないですが、日本のヒルティーといわれた、三谷隆正氏の著書により導かれ、 量治義氏の著書などを通じ、神谷美恵子さんの著書よりフランスの哲学者シモーヌヴェイユなどを知りました。シモーヌヴェイユの「根を持つこと」は難しい本ですが、これは彼女が作成したフランス憲法の草案で、読むべき本だと感じます。まだ、わたしは、全部読んでおりませんが。
2017-08-22 Tue 03:58 | URL | 山﨑哲 [ 編集 ]

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